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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)331号 判決 1948年6月26日

主文

原判決を破毀する。

本件を仙臺高等裁判所に差戻する。

理由

辯護人高屋市二郎、同福田力之助、同河野太郎の上告趣意第一點は『原判決は證據として「原審(第一審)第一回公判調書中原審相被告人下谷龜一の供述として皆川惣吉は農業會の會計をやっており、私は二回ほどその農業會に物品を賣却したことがあったりして、特に親しくないが心安くしておりました。昭和二十二年六月二日皆川からけん銃一ちょうと彈丸二十五発と麻の洋服地十二ヤールの賣却方を頼まれてそれ等の品物を受取りました。それは皆川の家で頼まれました。五、六日してそのけん銃は平河内文藏に二千圓で賣りました」との部分を引用説明した。そこで第一審第一回公判調書(記録八九丁以下)を調べて見ると「昭和二十二年七月九日福島地方裁判所郡山支部に於て判事裁判所書記田村清八列席の上檢事岡崎悟郎立會公判を開廷す云々」と記載してあって、列席判事の氏名の記載がない。欺かる公判調書は重大な缺點(刑事訴訟法第六十條、第六十四條参照)があって、其の記載内容は證據能力がないものである。從って原判決は虚無の證據を斷罪の資料に供した違法があるから破毀すべきものである。』というにある。

原審は判示事実を認定する證據として一、被告人の原審公廷における供述二、第一審第一回公判調書中第一審相被告人下谷龜一の供述記載を擧げておるのである。ところで第一審第一回公判調書を調べてみると列席判事の氏名の記載がないことは所論のとおりである。尤も同公判調書には判事猪狩一の署名捺印がしてあるけれども、それは唯刑事訴訟法第六十三條の要件を充たしたに止まり同法第六十條第二項第二號の要求する列席判事の氏名の記載があったという譯にはならない。そして同法第六十三條により公判調書に署名捺印すべき裁判長は公判に列席したものでなければならないのであって一人制の場合にはその事件の審理に關與した一人の裁判官でなければならないのに公判調書に列席した判事の氏名が記載してないから公判に列席した判事が公判調書に署名捺印したか否やも不明であるし又公判に列席した判事が果して判事たる資格のあった者かどうかも不明である。列席判事の何人であるかということは公判において最も重要な事項であるからその氏名の記載を公判調書の記載要件としたものであって從ってその氏名の記載を欠缺した公判調書は無效であると解すべきである。然らば原審が前記の如く第一審公判調書の記載を證據として事実認定の資料に供したことは違法であって論旨は理由がある。原判決はこの點において破毀を免れないから他の上告論旨については説明を省略する。

よって本件上告は理由があるから刑事訴訟法第四百四十七條第四百四十八條ノ二により主文の如く判決する。

この判決は全裁判官一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

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